「源氏物語 蓬生」(紫式部)

なぜ末摘花一人に照明を当てたのか?

「源氏物語 蓬生」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

「源氏物語」小学館

源氏が京を離れていた間、
末摘花はただひたすら
彼を待ち続けていた。
援助の途絶えた
彼女の屋敷は荒れ果て、
生活は困窮を極めていた。
侍女たちが次々と
見限って去って行く中、
彼女は故父宮の面影の残る屋敷で
堪え忍んでいた…。

ここに来て末摘花が再登場。
なぜ?という思いは
初読のときと変わりません。
源氏と関わった女たちと
源氏との関係の再構築については、
前帖「澪標」
丁寧に取り上げられているのです。
朧月夜、女房たち、花散里、
明石の君、宣旨の娘、五節の女君、
六条御息所、藤壺の尼宮、紫の上と、
「澪標」にはこれだけの女性たちの話題が
詰め込まれているのです。
それに対して本帖は末摘花の一人舞台。
第六帖「末摘花」では
その容貌の醜さを手ひどく描いていた
作者が、なぜここにきて
丸々一帖を使って
彼女に焦点を当てたのか。

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一つは、手をつけた女を
決して見捨てないという
源氏の信条を最も強く印象づけるという
ねらいがあったのでしょう。
「澪標」ではそれが
度々説明されていましたが、
そこで描かれているのは「美女」のみです
(花散里はやや異なるが)。
源氏は醜女であっても
見捨てないということで
駄目押ししたかったのかも知れません。

また一つは、作者の宮家への
礼節ととらえることもできます。
末摘花は故常陸宮(親王)の娘です。
天皇の血筋でありながらも
非力であれば
落ちぶれていくしかない宮家の現実を、
作者は身近に
見ていたのかも知れません。
作者の深い同情の念が感じられます。

そしてもう一つは、
源氏の愛をまったく疑わない
彼女の一途な面を描きたかったとも
考えられるのです。
平安の世は通い婚。
恋人であっても妻であっても、
男を待たなくてはならなかったのです。
「男の愛を信じ続けて待つ女」の
健気な姿は、
千年前であっても現代であっても
立派に物語になるのです。

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作者・紫式部がどのような思いを
持っていたのかは分かりません。
しかし本帖にかぎり、
主役は源氏ではなく末摘花なのです。
それが源氏物語五十四帖の中でも
特異な輝きを放っている
理由となっています。

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何はともあれ、紫式部が
宮廷の華やかな部分だけでなく、
本帖を通して零落した皇族にも
照明を当ててくれたおかげで、
現代の私たちは
当時の貴族社会の有り様を
詳しく知ることができているのです。

〔前帖〕

〔次帖〕

(2020.5.2)

PexelsによるPixabayからの画像

【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋

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